ビジネスシーンの数字のトリックと、法に触れない範囲、使い所、実際に問題になる理由などを順を追って説明します。
この記事は、真摯な営業を心がけたい方、騙されているのではないかと感じている方向けの記事です。
数字のトリックって何
端的に答えを出すと
「数字を様々な視点から見ることにより、良かったところだけをピックアップする技術」
と言えます。
良い面では
「納得しやすい数字がある」
悪い面では
「知識がない人を騙せる」
と言った技術になります。
数字のトリックの背景
「数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う」という話を聞いたことはあるでしょうか。
経済、マーケティングなどの本にはよく出てくる言葉です。
Figures don’t lie, but liars figure.
(数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う)
Mark Twain
諸説あるようで、一次ソースは確認できませんでしたが、調べてみるとトムソーヤの冒険の筆者、マーク・トウェインによる名言が発端のようです。
日本でも経済アナリストがTV番組で発言したことにより、一般認知されるようになりました。
少し解説を入れると、3つの要点に分かれています。
- 数字は嘘をつかない=数字は結果なので変わらない。
- 嘘つき=切り取り、計算を使って、結果を正しく見せない人。
- 数字を使う=説得をする時に数字がある方が信じやすい。
事実のみの結果を見せずに、恣意的に切り取った数字や、割り戻して良さそうに見える数字を出すのが”嘘つき”の常套手段です。
実例で見る数字のトリック
例えば事実が
があったとして、数字で嘘をつく人はトリックで
などの打ち出し方が出来てしまいます。
大規模になると、このような明らかに消費者を騙す売り方は法律で禁止されていますが、細かい単位では営業テクニックとして広く認知されています。
有名な一般例題
支払った金額は3人で9$ずつ、27$。受付がくすねた2$と合わせて29ドルしかない。1ドルはどこに消えた。
という有名な一般問題があります。
答えは、25$+2$=27$がトリックの答えです。
しかし言葉のミスリードにより、27$+2$=29$という2回くすねた数字が出てきてしまっています。
このように、本来あるべき数字ではなく、数字のトリックを使い「必要のない計算」を相手に強いる方法が無数に存在します。
余談ですが、出典元を確認していたところ、内田百閒の特別阿房列車という小説にも、ドルが円に変わって出てくるようです。
商談などで実際に使われる数字のトリック
テクニックとしてよく紹介されているものを、ピックアップしました。
使い所を間違うと信頼を失いますので、ここぞという時に使う意識を持ちましょう。
特に、下記の3つは相手を騙す目的で使われることが多く、信頼を失いかねませんので乱用しないようにしましょう。
- 細かく変わる数字の基準
- 「~率」「~%」などの計算結果
- 比較対象のない期間
論点のすり替え技法
人間のミスリードを引き起こすポイントで「強烈な印象」が残るものに注目する性質があります。
例えば「ものすごく多くの数」よりも「5万人」という具体的な数字があるものに注目をしてしまいがちです。
ビジネスの現場でよくあるミスリードの方法が以下のもの。
「なるほど。○○市場には5万社ほどあるので、伸びしろがありますね」
と言った会話です。
よくある会話なのですが、これで「5万」という数字に気を取られてしまい会話が
「失礼しました。その1%目指して700社売るのはできそうですね」
と展開されていきます。
論点としては「どのように」売っていくのかだったのが「売れるか否か」に切り替わっているのです。
トリックをうまく使う人は、不都合な話題に切り替わる直前でこのテクニックを使います。
また、特に相手が興味関心が高い話題に対して「対立する意見」をうまく引き出すことにより、論点がズレていく事が多くあります。
回避方法としては、会議や会話の中で「この話のゴールは何か」をハッキリとさせるアジェンダ
を作りましょう。
アンケート調査
最も一般的なテクニックです。
しかし、アンケートの結果を「より正しい」方法にするためにはいくつかの注意点があります。
- 偏りのない母集団
- 記入時のプライバシーが保証されている
- 恣意的な質問がされていない
- 予言の自己成就やアナウンスメント効果の影響を考慮されている
これらを完全に満たすアンケート調査を行うのは不可能に近いため、世の中のほぼ全てのアンケートには何かしらの「調査をする人の思考や意思」が含まれることになります。
満足度調査を例に上げると、「商品購入継続者に満足していますか?と質問するとYESが95%だった」ため「満足度95%」と表記する。という内容です。
継続的に買っている人は、買っているのだから満足しているだろう。という当たり前の結果です。
これが購買を辞めた人なども含めると正しい数値になりますが、購買を辞めた人にどのようにアンケートを依頼するのか。という収集技術の問題が発生します。
そのため、正確な満足度調査というものは収集不可能なものとなります。
アンケート調査そのものに意味はありませんが、一般消費者にとってわかりやすい数字は魅力的です。
他の商品の魅力と併用して、最後のひと押しとして使う分には問題ありません。
アンケートに頼った商品の見せ方ではなく、商品の魅力の一部として使えるとベストですね。
詳細はまた別の機会にご紹介します。
分割された数値
営業トーク、マーケティング、キャッチの表現手法でよく使われる方法です。
「1年18万円」の高級ドライヤーを売り出そうとした時に、
「1日たったの500円」と1年で割り戻した数値をキャッチに使います。
注意しておきたいのは、1日1回使う可能性があれば、この商品の宣伝文句は成立しますが更に分割することは出来ないということです。
例えば同じ商品でも「1時間たったの20円」とは言えません。
それは1時間に1回、1日24回使う商品ではないためです。
最小単位には注意しましょう。
この数値のトリックは、BtoBの現場では複数の部署が絡む場合無意識に使われてしまっているケースがあります。
よくあるのは人件費の時給計算で、1日拘束だが3時間が最小単位として計算されてしまっている。などです。
分割できる最小値がどこなのかを把握し、売り手、買い手側の両方が意識する必要があります。
受注後のトラブルになりやすい点でもありますので、ご注意ください。
細かく変わる数字の基準
前職で働いている時にある日、SEOの法人営業の方が矢継ぎ早にこのような内容を言ってきたことがあります。
「導入すると売上が180万上がる事が期待できます」
「ツールによって商談件数が50件あがります」
「コンバージョンが80件は手堅いです」
「PVが3倍は増えてUUも2倍になります」
実際触りの良い言葉が多かったので、新しく配属されたマーケティング担当者だと騙されそうだな。と思える数字を並べていました。
(結局母集団のデータを見て納得できなかったので導入しませんでしたが)
しかし、この会話で私が感じた最初の印象は「詐欺の手法では」でした。
各話題の基準がバラバラで、話を聞いていると営業テクニックとして「良い数字をピックアップする」という手法を意識して使っていると教えていただき、腑に落ちました。
内容として「売上」→「商談」→「コンバージョン」→「PV」→「UU」と、自分の伝えやすい話にシフトさせていたのです。
基本的に会話の軸になるポイントを「売上」に絞るのであればシミュレーションは「売上の貢献のための逆算」である必要があります。
「~率」「~%」などの計算結果
1.数字のトリックを使った代表的な騙し方の一つです。
2.また、効率の良い騙し方は、事実を絡めて話す方法です。
この2つの理論が重なる点こそ「確率」「比率」を使った恣意的計算式に行き着きます。
例えば、
- 500件中455件が商談につながった
- 7件中6件が商談につながった
この2つはどちらも87.5%の商談率です。
そこで使われる数字のトリックの会話方法はこのような例文が出来ます。
- リードが1000件超え、商談が80件程度の顧客
- リードが7件、商談が6件の顧客
の2種類の情報があったとします。
と説明されます。すると受けた側は「875件も商談が取れてるのか。すごい」と勘違いします。
そして何よりこの率の厄介な点は「意図せず騙しているケース」が大半を締めます。
この説明をしたフィールドセールス方はそれぞれの数字だけ渡されており、意図せず騙している状態が起きうることです。
さらに問題なのは、この現場には原因を作った本人はいないため、問題発覚時まで時間がかかってしまうことです。
オペレーション上の原因は、資料作成者が実績情報を収集し、確率の最大値のみをピックアップしたことにあります。
本質的な問題としては、定性的な数字と定量的な数字の意味を理解していない点にあります。
比較対象のない期間
俗に言う「切り抜き」と言われる手法です。
こちらのデータをサンプルに、人口の推移を「増えたこと」にしてみます。
令和2年国勢調査 人口等基本集計 結果の要約
作り方を知ることにより、見抜くポイントが分かってきます。
1,生データを抜き出す
2.色を付けてみる
ここまでは正しい加工範囲です。
人口が増加していますが、増加率が減っていることがわかります。
3.年次を5年毎の基準をなくしてみる
比較対象を勝手に20世紀の5年毎と、21世紀に入ってからという分け方をしてみます。
これにより、比較対象がの期間が崩れます。
しかし、データ上は「人口が増えた」という数字の流れとなります。
4.不都合なデータを隠す
さらに、人口が増えたことにしたい。という目的で人口増加率などのデータを恣意的に隠してみます。
すると人口が右肩上がりで増えているデータが爆誕しました。
このようにして数字のトリックが生まれてきます。
データを見るときは「期間が同じか」「不都合なデータが隠されていないか」の2点に注意して見るようにしましょう。
Tips:曖昧表現とワンセットになることが多い
比較対象を出さない際、会話傾向に「曖昧表現を使う」という特徴があります。
心理的に感覚に委ねられる表現を使い煙に巻こうとしてしまうのです。
これは自覚があるなしにかかわらず使われる傾向があります。
-
- 最近
-
- 昨今
-
- 近年
-
- この時期
- すぐに
など、時期がはっきりしない言葉には気をつけましょう。
期限を明確にすることにより、契約や法的トラブル防止に繋がります。
テクニックでは事実を捻じ曲げない
違法と適法の境目
一般論の範囲になりますが、基本的に消費者から騙し取る目的で数字を操作すると違法です。
販売実体のほとんどない商品で「累計販売数100万本突破」など、嘘をつかないようにしましょう。
表現として微妙なラインのものは、消費者庁のガイドラインを確認したり、弁護士などに相談する必要があります。
提出する資料の数字の基準は同じにする
複数回打ち合わせを行う場合は、まず基準を決めるのが重要です。
そのためには、自社ではどのような数字に責任を持って対処をしているのか。などが重要です。
商談数、契約数など、どの点が重要視されるかを把握しましょう。
BtoBの現場では「KPI(中間目標達成状況)」「KGI(ゴール・最終目標達成状況)」と表されます。
継続的な打ち合わせでは可能な限り前回と同じ条件で出す
毎月の打ち合わせを行っている資料で「今月は客単価が高かったから大きく目立たせよう」などの思考を排除します。
常に見るべき数字は一定で、追加をする場合は別途資料を用意しましょう。
サマー・ウインター商材など、季節性商材等の場合は、月単位では数字の意味が変わってしまう可能性がありますので、昨年対比などが望ましいです。
定性的な数字、定量的な数値の違いを理解する
定性的・・・定量的に表せられない結果。1以外の選択肢がある。
※定性的の内容は数字のトリックに着眼する上での表現を選んでいます
定量定期な数字は「人数」「契約数」「架電数」などはかならず1人、1契約、1回。もしくはナシ。となる数字です。
この数を合計した数字までは定量的と考えて差し支えありません。
ただし、2回以上合計する場合は様々な条件や意図が含まれるため、定性的なデータになる可能性が残ります。
満足度は5段階評価だったり、契約率などは10~15%のように1以外の数字が必ず発生するものは、基本的に製作者の意図があるもの=定性的な数字の可能性が残ります。
この問題で特によく起きるケースは「先月と今月の比較」です。
- 先月=30日
- 今月=12日(残り18日)
のような状態で「率」が出ている場合、曜日や日数の条件が異なり、お互いに話の意図が組めない会話になりがちです。
可能な限り月次比較ではなく、28日比較、もしくは週次の比較を行うことをおすすめします。
定性的な数字は、相手にわかりやすく伝えるためにはどこかで必要になります。
一定の基準をどのように持つかを意識しましょう。
ビジネスシーンでよく使われる数字のトリックについてのまとめ
数字のトリックは刃物のようなものです。
「相手を騙すため」に使えば危険ですが、「商品の魅力をより伝えるために」使えばより良い手段だといえます。
悪意を持って使えば危険物ですし、正しく使えば最高のツールとなるでしょう。
あくまで技術であることを理解し、活用してみてください。