機械も、現場の使い方も残す。
地域のIT会社がつなぐ設備のこれから
機械はまだ動くのに、それを制御するパソコンやソフトのサポートが終わってしまう。和歌山県有田川町の株式会社TechnologyDockが力を入れているのは、そんな設備を、今のパソコンや部品で使い続けられるようにする仕事です。
シンガポールで金融分野のCTOとして働いた経験を持ち、2021年に同社を立ち上げた代表取締役の神山裕介様。地元で事業を始めたきっかけ、現場の操作を変えずに設備を延命する工夫、AI時代に地域の会社が担う仕事について伺いました。
今回ご回答いただいた方
株式会社TechnologyDock
神山 裕介 様
株式会社TechnologyDock 代表取締役。シンガポールで金融分野のCTOとして働いた経験を持ち、2021年に和歌山県有田川町で同社を創業。工場設備や業務システムの延命、PCの導入・入れ替え、AI活用講座などに取り組んでいる。
貴社の仕事と事業の原点
まず、いま一番力を入れている仕事を教えてください。
いま一番力を入れているのは、「止められない設備を、捨てずに延ばす」仕事です。
工場の現場には、機械はまだ十分に動くのに、制御しているパソコンがWindows XPのまま、メーカーのサポートは終わり、部品も生産終了、詳しい担当者ももういない――という設備がたくさんあります。入れ替えれば数百万〜数千万円。かといって、止まったら仕事になりません。
私たちは、その装置とソフトの動きを読み解き、今のパソコンや部品で動く条件を確かめて、現場は「いつも通り使うだけ」の状態で入れ替えます。必要に応じて、カメラによる検査や作業記録の自動化など、AIを後から足すこともできます。
このほか、PCの導入・入れ替え、AI活用の講座も行っています。
設備も、現場の使い方も残す仕事なのですね。和歌山で事業を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
シンガポールで金融分野のCTOとして働き、そのまま現地で働き続けるつもりでいました。きっかけは「人」と「環境」です。
地元の方から「和歌山でIT支援をする会社をやってみないか」と声をかけてもらっていたこと。そして、コロナでシンガポールから帰ってくることになった環境の変化です。
最初は、金融で培ったデータ分析の経験を生かして、地域の会社の管理会計や業務の仕組みづくりから始めました。有田川町の株式会社マルケンみかん様のように、戻ってくるきっかけになったお客様もいます。2021年に会社を立ち上げました。
いまは、和歌山と東京の拠点をどう使い分けていますか。
和歌山本社は「現場の拠点」です。機械の前に立って動きを見て、配線をたどり、パソコンを持ち込んで試す。設備の仕事は、近くにいることが何よりの強みです。
東京オフィス(渋谷)は「調達と情報の窓口」です。生産終了した部品の後継品を探したり、メーカーや商社と直接やりとりしたり、業界団体を通じて新しい技術に触れたりするときに、東京のつながりが生きています。
地方の現場の困りごとを、東京のつながりで解く。この往復が二つの拠点の役割です。
顧客の現場で担う仕事
設備を延命した具体的な事例を、一つ教えてください。
建具部品のメーカー様の例です。取手や蝶番を削るNC加工機に、加工プログラムを送るパソコンがWindows XPのまま残っていて、更新の手立てがありませんでした。パソコンが壊れたら、まだ動く加工機がまとめて止まってしまいます。
パソコンの故障で、加工機まで止まってしまうのは心配ですね。そこを、どう解決したのでしょうか。
私たちは、ソフトの設定と機械との通信の仕組みを調べ、加工機はそのままで、サポートの続く新しいWindowsのパソコンで動く条件を確かめました。そのうえで、号機ごとの移設手順と、うまく動かないときに原因を切り分ける診断ツールを用意し、現場の方は「アイコンを押すだけ」の状態で入れ替えを終えました。
加工機本体はそのまま、大きな設備投資をせずに使い続けられるようになりました。同じお客様では、古い通信方式(RS-232C)でしかつながらないラベルプリンタの入れ替えもお手伝いしています。
機械を残して、パソコンを入れ替えたのですね。現場の方が使う操作も、変わらないのでしょうか。
生かしたのは、機械本体と、現場の方の操作です。ボタンの押し方ひとつ変わると、現場は混乱しますし、ミスの元になります。
変えたのは、その裏で動いている古いパソコンと周辺機器だけです。
次の入れ替えに備えて、何を残していますか。
もう一つ大事にしているのは、手順書と診断ツールをお客様に納品することです。次に入れ替えが必要になったとき、私たちに頼らなくても同じことができるようにしておく。「現場の人が明日から同じように使えること」と「次の人が困らないこと」が線引きの基準です。
みかんのAI選別も、同じ考え方なのでしょうか。
有田川町の選果場で、みかんの選別をAIと画像で支える取り組みを進めています。これも考え方は設備の延命と同じで、今ある選果機をそのまま生かし、判定の部分だけを新しくすることで、設備の入れ替えにかかる費用を大きく抑えることを目指しています。
現在は、どの段階まで進んでいますか。
現在は、現場での確認や、カメラ・照明の専門メーカーとの検証の準備を進めている段階です。選果の現場は季節が限られるので、収穫期に合わせて試験を重ねていきます。
事業を支える役割分担と判断
検証には、カメラや照明の専門メーカーも関わるのですね。設備メーカーや販売店との役割分担も、教えていただけますか。
お客様の現場には、すでに設備メーカーや販売店、部品の商社が関わっています。私たちはその方々の仕事を置き換えるのではなく、「誰の担当でもなくなった部分」を引き受けます。
機械そのものはメーカーの領域です。でも、その機械を動かしている古いパソコンやソフト、周辺機器は、サポートが終わると誰も面倒を見られなくなります。生産終了の部品も、メーカーや商社に直接問い合わせて、在庫や後継品を探します。
取り残された部分を拾って、メーカーと現場の間をつなぐのが、地域の小さなIT会社の役目だと考えています。
現場で分かったことは、次の仕事へどうつなげていますか。
社内では、お客様とのやりとり、作業の記録、電話の内容までを台帳に残し、AIで横断的に読み返せるようにしています。「前に似た機械で同じ症状があった」を、人の記憶に頼らず探し出せる状態です。
設備の移設では、手順書と診断ツールを毎回形にして残します。一件ごとの経験が、次の現場の道具になっていきます。
すでに情報になっていることを整理して処理するのは、機械の仕事です。人は、まだ答えのない所を切り開くことに時間を使う。この考え方を、会社の仕事の進め方にもそのまま当てはめています。
なるほど。記録を、次の現場でも使える道具にしているのですね。AIの登場で、事業の軸も変わりましたか。
もともと私は管理会計を専門にしていて、創業当初は数字の見える化や経営指標の管理が事業の中心でした。
ところが、生成AI(大規模言語モデル)の登場で、数字をまとめて読み解く仕事は、AIを使えば誰でもできる仕事の一つになりました。そこで、時間とお金を「AIにはできない仕事」に振り向けることにしました。
どんな仕事に、時間とお金を振り向けたのですか。
AIは、画面の中の情報なら何でも処理できます。でも、工場の機械の前に立って、配線をたどり、古いパソコンを開けて、動く条件を確かめることはできません。現場に足を運べる地方の会社だからこそできる仕事に軸足を移し、AIは自分たちの道具として使い倒す。この判断が今の事業の形になっています。
地域で技術の仕事を続ける条件
地域で相談を任せてもらうには、何が大切ですか。
地域では、いきなり「DXしましょう」と言っても相談は来ません。最初は「パソコンが動かない」「プリンタがつながらない」といった小さな困りごとから始まります。そこにすぐ駆けつけて解決することを重ねるうちに、「実は工場のあのパソコンが心配で」と本題の相談をいただけるようになります。
先ほどの建具部品メーカー様とも、パソコンの入れ替えから始まり、今では工場の設備や社内のデータの置き場所まで、まとめて相談をいただいています。
技術の相談をいただく前に、まず「困ったときに頼れる人」になること。地域ではそれが一番の近道だと感じています。
起業のきっかけになったご縁は、今の仕事の進め方にもつながっていますか。
私の転機は、「人」と「環境」でした。
一つは、和歌山でIT支援をする会社をやってみないかと声をかけてくれた人がいたこと。もう一つは、コロナでシンガポールから帰ってくることになった環境の変化です。
自分で計画して選んだというより、人と環境に背中を押されて今の道に来ました。だから今でも、ご縁を大事にして、目の前の相談に一つずつ応えるという進め方は変えていません。
設備の入れ替えに比べて、お客様の負担も抑えられるのでしょうか。
機械本体を残し、裏のパソコンや部品だけを替えるので、お客様の負担は設備を入れ替える場合よりずっと小さく済みます。
御社の採算は、どう確保していますか。
こちらの採算は、調べ方と道具を使い回すことで成り立たせています。古い装置の通信や設定を読み解く手順、診断ツール、部品の探し方は、一度形にすれば別の現場でも使えます。資料の読み込みや調べ物にはAIを使い、少人数でも多くの現場を回せるようにしています。
採算を支えるうえでも、AIを活用しているのですね。AI活用講座では、どんな方に、何を伝えているのですか。
対象は、会社員の方から小中高大の学生まで幅広く、出張授業も行っています。目指しているのは、「AIで何ができるか」を知ることではなく、「自分の仕事のこの部分はAIに任せられる」と自分で気づけるようになることです。
相手の仕事に合わせて、例題も変えています。事務の方にはメールや書類の整理、経営者の方には資料の読み込みや比較、といった具合です。
当社のメンバーは、和歌山で初めてのAnthropic公認「Claudeコミュニティアンバサダー」にも選ばれ、地域でAIを学べる場づくりにも取り組んでいます。
これから取り組みたいこと
これから、地域でどんな仕事を広げていきたいですか。
「止められない設備を、捨てずに延ばす」仕事を、地域の工場や農業の現場に広げていきたいと考えています。
日本中の工場に、まだ動くのに、サポート終了・部品切れ・担当者不在で手放されそうな設備が眠っています。設備を入れ替える体力のない中小企業ほど、この問題は深刻です。
次は、これまでの現場で作ってきた手順と道具を整え、もっと多くの現場で早く・安く延命できるようにすること。そして延命した設備に、画像検査や記録の自動化といったAIを足して、古い設備を「新しい設備より賢い設備」にしていきたいと考えています。
最後に、これから地方で事業を始める方へ、伝えたいことはありますか。
仕事というのは、ご縁で成り立っていると思います。自分がこうすればこうなる、ということは、はっきりとはわかりません。
だから、どういうふうに思う日があっても、明日も店を開けること。これに尽きると思います。
物事は、自分の意図する方にも、しない方にも、変わり続けます。ちょっとケチが付いたくらいで閉めていたら、きりがありません。
神山様、ありがとうございました。

機械が動いていても、周りのパソコンが使えなくなってしまうのですね。その設備を、どうやって使い続けられるようにするのですか。