猫可物件を増やし、保護猫を迎えられる選択肢を広げる
「ペット相談可」と書かれていても、猫が飼えるのか、何匹まで一緒に暮らせるのかは分からない。そんな住まい探しの難しさに、熊本で向き合っているのが株式会社ネコ不動産です。猫可物件の賃貸・売買仲介や賃貸管理を手がけ、猫と暮らす人に必要な条件を分かりやすく届けています。
代表取締役の鶴上万里生様が見据えるのは、保護猫を迎えられる世帯を増やす「待機猫ゼロ」の社会。猫との出会いから創業、物件所有者との協力、熊本発のポータル「ネコ不動産.com」まで、お話を伺いました。
今回ご回答いただいた方
株式会社ネコ不動産
鶴上 万里生 様
株式会社ネコ不動産 代表取締役。熊本県出身。高専卒業後は化学工場に勤務し、不動産業に携わる人との会話をきっかけに、猫可物件を増やす事業を構想した。2024年に同社を設立し、猫可物件の仲介・管理と、物件情報を全国へ届けるポータル事業に取り組む。
猫と暮らす住まいを、選べるものに
現在の事業と、猫と暮らす方・物件所有者の双方に届けたい価値を教えてください。
ネコ可物件の専門店として、賃貸・売買を問わず猫と暮らせる物件を主に取り扱っています。猫可物件が増えれば、猫と暮らせる人、保護猫を迎えられる世帯も増えます。幸せな猫と猫好きの方を増やし、「待機猫ゼロ」の社会を目指しています。
入居者には安心して猫と暮らせる住環境を届けたい。一方、物件所有者には空室率や利益率の改善につなげながら、入居者による適正な飼養を通じて猫を受け入れるリスクを下げることを大切にしています。
猫可物件に特化することで、どのような強みが生まれましたか。
一般的な募集サイトでは「ペット相談」とだけ書かれ、猫を飼えるか、飼えるとして何匹までかが分からないこともあります。ネコ不動産では、猫を飼えることに加えて、飼育可能な頭数まで明記するようにしています。猫との暮らしを考える方が本当に知りたい情報を届けることが、私たちの強みです。
猫好きというだけでなく、宅地建物取引士や賃貸不動産経営管理士などの不動産関係の資格、愛玩動物飼養管理士やペット共生住宅管理士などの資格を持つ人材が在籍しています。熊本県内の保護猫団体や獣医師とも関係を築き、猫のことを相談できる環境づくりを進めています。
ネコ不動産らしい仕事が伝わる、印象に残った事例を教えてください。
ペット可の戸建て賃貸を1年以上募集しても入居者が決まらず、相談を受けたことがあります。ネコ不動産で猫の多頭飼育が可能な物件として募集したところ、1~2か月で入居者が決まりました。
この契約では、猫1匹につき月額賃料を2,000円加算し、条件に応じて猫に関する原状回復費用をネコ不動産が負担する「プレミにゃむプラン」を適用しました。4匹の猫と暮らす入居者は住まいを見つけられ、物件所有者も通常より高い賃料で貸すことができました。
保護猫との出会いから生まれた事業
創業のきっかけと、今も変わらない思いを聞かせてください。
子どもの頃から祖父母の家に猫がいて、猫アレルギーながら自然と猫好きになりました。16歳頃に家族が迎えた三毛猫の「きなこ」と暮らして、その幸せをより強く感じました。ネコ不動産のロゴも、きなこがモチーフです。翌年には、熊本市の動物愛護センターから黒猫の「ココ」を迎えました。そこで猫の殺処分という現実を知り、猫のために何かできないかと考えるようになりました。
高専を卒業して化学工場で働いていた時、不動産業の方との会話から、猫可物件が増えれば保護猫を迎えられる人も増えるのではないかと気づいたんです。目指したのは、保護猫を引き取ることだけではありません。猫と人が一生涯ともに暮らせる住環境をつくることです。この思いが「ネコとネコ好きのための不動産屋さん」という経営理念につながっています。
猫と人が一生暮らせる環境をつくるという思いが、事業そのものにつながっているのですね。理念と経営が結びついていて、素晴らしいと思います。
なぜ熊本で始め、地域での経営から何を学びましたか。
熊本は私の地元です。大分県に約8年住んだ後、将来のことも考えて戻ってきました。熊本は都会すぎず、田舎すぎない地方都市だと捉えています。ここで猫可物件専門の不動産事業が成り立てば、ほかの地域にも広げられる可能性があると考えました。
一方で、猫と引っ越す方の絶対数は大都市ほど多くなく、賃貸仲介の売上には時期によるばらつきがあります。賃貸仲介以外の収益の柱をつくり、熊本内外の猫可物件を探しやすくするため、ポータル「ネコ不動産.com」に着手しました。
熊本で見えた課題が、全国に猫可物件の情報を届ける構想につながったのですね。
創業当初、認知を広げるためにどのようなことをしましたか。
まず猫好きの方にネコ不動産を知ってもらうことに力を注ぎました。保護猫活動をする団体をホームページで紹介し、保護猫に関するイベントにも参加しました。猫可の新築物件では、完成見学会と保護猫譲渡会を兼ねた催しも開いています。
会社案内のチラシを広く配ることも試しましたが、手応えが薄かったためやめました。実際に猫や住まいに関心のある方と接点をつくる取り組みを続けています。
物件所有者とつくる、猫可物件の選択肢
物件所有者の不安に、どのように向き合っていますか。
猫可物件の少なさや猫と暮らしたい方の声をデータとともに伝えています。所有者が最も心配するのは原状回復のリスクです。そこで、入居年数などの条件に応じて費用をネコ不動産が負担する「プレミにゃむプラン」を提案しています。
このプランは管理料10%で、猫1匹につき月額賃料を2,000円加算します。5年以上の入居では基本的な原状回復費用を当社が負担する設計です。長期入居を促し、短期退去や空室のリスクを抑える提案として、所有者に説明しています。費用負担の範囲は契約条件によります。
猫可物件の専門家ならではの配慮ですね。
全国向けポータルの構想につながった出会いは何でしたか。
SNSでネコ不動産を知った方が、猫専用設備を備えた新築物件の所有者に私たちを紹介してくれました。入居者を紹介する中で、その所有者から「猫好きに届く不動産ポータルサイトを作ってくれないか」と相談されたんです。
当初は熊本での事業をまず育てようと考えていました。でもポータルがあれば、全国の猫可物件を増やし、事業の新しい柱にもできる。そう考えて「ネコ不動産.com」に取り組み始めました。
現在の事業を支える体制と、判断の軸を教えてください。
現在は基本的に私と妻の2人で事業を進めています。物件撮影やSNS運用は業務委託の方に協力いただき、ポータル事業は信頼できる社外の方と密に連絡を取りながら進めています。
判断に迷う時は、いつも「ネコとネコ好きのためになっているか?」と問いかけています。事業が広がっても、この軸は変えたくありません。
届け方を見直し、事業を続ける工夫
利用者の声を受け、今後の物件づくりをどう考えていますか。
猫と暮らす方が必ずしもキャットウォークなどの設備が整った専用物件を求めているわけではない、と感じています。今後熊本で企画・提案する物件は、特別な猫仕様に限らず、通常の住まいで猫と暮らせることを重視したい。できれば3匹以上の飼育も可能な物件を増やしたいと考えています。
「ネコ不動産.com」は、従来の仲介で届かなかった物件をどうつなぎますか。
猫好きの方に住んでほしいと思っている所有者がいても、その物件情報が当事者に届いていないことがあります。熊本でも当社が仲介できない物件があり、県外の物件は距離のため紹介が難しい状況でした。
ポータルでは、物件を探す方を掲載する不動産会社や所有者に直接つなげられます。私たちが仲介に入らなくても猫可物件の情報を届け、全国で猫と暮らせる選択肢を増やしたい。熊本で培ったSNS発信や、猫好きの方が住まいに求めることへの理解も、各地の管理会社や所有者との連携に生かします。
仲介に入れない物件も、猫と暮らしたい方につなげられるのですね。
顧客との接点づくりに、どのように取り組んできましたか。
認知づくりに最も時間と資金を使ってきたのは、InstagramやTikTokなどのSNSです。業務委託の方にも協力してもらい、創業からほぼ毎日、計画的に投稿しています。問い合わせは主に公式LINEに集め、登録時のアンケートでネコ不動産を知った経路を尋ねています。回答ではInstagramをきっかけとする方が最も多いです。
限られた体制で、丁寧な対応と事業の継続をどう両立していますか。
公式LINEのアンケートでは、引っ越しの予定時期も確認します。1~2年先に転居を考えている方にはまず必要な案内をし、物件探しに多くの時間をかけるのは時期が近づいてからにしています。今募集している物件がその時まで空いているとは限らないからです。限られた体制でも、必要な時に役立つ対応を続けるための工夫です。
なるほど。確かに弊社代表もネコを連れて引っ越しをする時に苦労したと言っていたので、同様の悩みは多そうですね。
熊本から、待機猫ゼロの未来へ
これから最も力を入れる取り組みと、最初の目標を教えてください。
今、最も力を入れたいのは「ネコ不動産.com」のポータル事業です。全国の猫可物件を掲載し、猫と暮らす住まいを探す時に思い浮かべてもらえる存在にしたいと考えています。
そのためには、各地で事業を広げる人材や不動産会社との連携、ポータルを広める営業の仕組みが必要です。まずは熊本以外の九州各県の猫可物件が掲載されることを、全国へ向けた一歩にしたいです。
掲載する地域が増えれば、猫と暮らしたい方の選択肢も広がりますね。
事業が広がっても、変えずに持ち続けたいことは何ですか。
熊本で猫との暮らしに困った時、「ネコ不動産に相談すれば何とかなる」と思ってもらえる会社を育てたいです。そして、猫と人が当たり前に一緒に暮らせる環境をつくり、「待機猫ゼロ」を実現したい。
事業が広がっても、収益性の高い富裕層向けのサービスだけに偏りたくありません。所得が高くない方も、猫と安心して暮らせる社会を目指します。
本日は貴重なお話をありがとうございました。

入居者と物件所有者の双方にとって、猫可という条件が価値になった事例ですね。