地方での挑戦~都会と戦う若者たち~

シテン株式会社

地域の事業を、
次の世代が続けられる形へ

富山の現場を引き継ぎ、経営の土台を支える

事業承継・経営支援 / 中谷 幸葉 様
栽培施設でスプラウトを手にする中谷幸葉様(シテン株式会社提供)

富山の現場を引き継ぎ、
経営の土台を支える

後継者や経営を支える人がいないために、地域に必要な仕事が終わってしまう。富山を拠点とするシテン株式会社は、そうした事業を次の世代が続けられる形にするため、現場の強みを見つめ直し、経営管理、販路、広報、人材育成を支えています。

庄東ノーサンの承継から、若手農家や学校との連携、鮎料理店「魚安」への関わりまで。代表取締役社長の中谷幸葉様に、シテンが担う仕事と、担い手に委ねる判断、支援を事業として続ける仕組みについて伺いました。

今回ご回答いただいた方

栽培施設でスプラウトを手にする中谷幸葉様(シテン株式会社提供)

シテン株式会社

中谷 幸葉 様

シテン株式会社 代表取締役社長。一般社団法人とやまのめの代表理事も務める。本記事では、シテンとしての事業承継、経営支援、地域との連携について伺った。

シテンを設け、事業を引き受ける

まず、富山でシテンを始めたきっかけを教えてください。

富山には、技術や思いを持った事業がたくさんあります。一方で、後継者がいない、経営の土台を整える人がいないという理由で、地域に必要な仕事が終わってしまう場面も見てきました。私はそれがとても悔しくて、残す価値のある事業を、次の世代がちゃんと続けられる形にしたいと思ったことが、シテンを始めた大きなきっかけです。

地域に必要な仕事が途切れてしまう悔しさが、出発点だったのですね。その思いを、シテンではどのような仕事にしていますか。

シテンが担っているのは、単に会社や事業を引き継ぐことではありません。現場の強みを見つめ直し、経営管理、販路、広報、人材育成などを整えながら、若い担い手が自分の判断で前に進める状態をつくることです。庄東ノーサンや魚安などの取り組みを通じて、富山のローカルビジネスが次につながる実例を増やしていきたいと考えています。

その仕事の具体例として、庄東ノーサンについて伺います。庄東ノーサンの事業を引き受ける際、残す意義と、経営を続けられる見通しをどう確かめましたか。

庄東ノーサンには、長く積み重ねてきた生産技術と、取引先や地域からの信頼がありました。承継前には現場を見て、そこで働く人たちの姿勢や、品質に対するまじめさを確認しました。これは途切れさせてはいけない仕事だと感じましたし、地域の食や雇用を守る意味でも、残す価値がある事業だと判断しました。

決め手になったのは、山岸さんをはじめとする若い担い手の存在です。現場を大切にしながら成長していける人がいるなら、シテンはその後ろ側で経営管理、販路、品質管理、資金面の整理を支えられる。そう考え、事業として続けられる見通しを持って引き受けました。

引き継いだ事業を、続けられる経営へ

承継後の栽培・品質管理の整備やJGAP認証の取得では、現場とシテンはどのように役割を分けましたか。

承継後に大切だったのは、現場の感覚や経験を否定するのではなく、次の人たちが共有しやすい仕組みに変えていくことでした。JGAP認証の取得に向けた体制整備も、その一つです。認証を取ること自体が目的ではなく、品質や安全を自分たちで守り続けるための共通言語をつくる意味がありました。

庄東ノーサンの現場には、日々の栽培や出荷に集中してもらう。その一方で、シテンは全体の進行管理、申請実務、専門家との連携、必要な資金や人材の調整を担いました。現場の「つくる力」と、シテンの「仕組みにする力」を分けて考えることで、若いチームでも安定して事業を続けられる土台を整えてきました。

若い人に経営を任せる際、どのような力を見ていますか。

私が見ているのは、年齢や肩書よりも、現場に対して誠実であること、分からないことをそのままにせず考え続けられること、そして周りに相談しながら前に進めることです。最初から完璧な経営者である必要はありません。大事なのは、自分ごととして現場と向き合い、決める経験を積んでいけるかどうかだと思っています。

最初から完璧でなくてもいいんですね。では、山岸さんにはどこまで任せていますか。

山岸さんには、日々の生産や現場での判断など、事業の芯になる部分を任せています。シテンが代わりに決めすぎると、本人の経営にならないからです。一方で、資金繰り、外部との交渉、リスク管理、専門知識が必要な部分は、後ろから支えます。任せることと、放っておくことは違うので、必要なときに相談できる距離感を大切にしています。

なるほど。こうした支援を続けるために、シテン自身はどのような仕事や収益で経営を支えていますか。

シテン自身は、承継先や地域事業への経営支援、広報・ブランディング、地域資源を活かしたプロジェクトの企画運営などを収益の柱にしています。短期的に売買して終わるのではなく、事業が育つまで伴走し、その成長がシテンの信頼や次の仕事にもつながる形を目指しています。

事業承継や若手育成は、思いだけでは続きません。支援する側も持ち出しで疲弊しない仕組みが必要です。だからこそ、承継先が自立して売上をつくれるようにすることと、シテンの支援も事業として続くことを両方大切にしています。その循環ができて初めて、次の挑戦にも人や時間を使えるようになります。

庄東ノーサンの販売や取引先との関係づくりには、どのように関わっていますか。

販売面では、まず既存の取引先との信頼を崩さないことを大切にしました。承継したからといって急に別の事業に見えてしまうのではなく、これまで大切にされてきた品質や安定供給を守る。そのうえで、商品の見せ方や伝え方を整え、富山の農家としての強みがより伝わるようにしています。

シテンは、新しい販路づくりや発信、ブランディングの部分で伴走しています。取引先からは、品質が続いている安心感に加えて、新しい取り組みが見えるようになったことを前向きに受け止めていただいています。作る人の誠実さと、商品が届くまでのストーリーをきちんと伝えることが、販売面でも大事だと感じています。

農家・学校・地域を、次の担い手につなぐ

庄東ノーサンの販売支援に加えて、若手農家コミュニティ「F-35」では、どのような役割を担っていますか。

F-35は、若手農家が一人で抱え込まず、知識や販路、人手、発信の機会を共有できる場として大切だと考えています。農業は個人の努力に見えやすい仕事ですが、販路開拓やPR、イベント運営などは、一人で続けるには負担が大きい部分もあります。

シテンは、販売会やイベントでの発信、事業者同士のつなぎ役、企画の整理などで関わっています。例えば、若い農家同士が横につながることで、お互いの商品を知り、応援し合える関係が生まれます。そうした小さな連携を重ねることで、個々の農家だけでなく、地域全体の農業の見え方を変えていきたいです。

学校との連携についても伺います。氷見高校との「ウニとやさいクル」などで、目指すことと大切にしている進め方を教えてください。

学校連携で目指しているのは、高校生たちが地元の産業や食、地域資源を「自分たちにも関係のあるもの」として感じられる機会をつくることです。教科書の中だけでは分からない、現場の面白さや難しさに触れることで、将来の選択肢が少しでも広がればいいと思っています。

シテンは、学校と地域企業・事業者の間に立ち、企画の組み立てや進行の調整を担っています。大切にしているのは、大人が答えを用意しすぎないことです。生徒の主体性を尊重しながら、地域の事業者も一緒に学ぶような関係にすることで、学校連携が一度きりのイベントではなく、地域に残る経験になると考えています。

「みらいのめプロジェクト」は、事業の中でどのような役割を担っていますか。

「みらいのめプロジェクト」は、事業で得た力を次の世代の挑戦に戻していく仕組みとして位置づけています。生産や雇用を守ることと、地域への還元は別々のものではなく、同じ循環の中にあると考えています。

では、現場への投資と地域への還元は、どのように両立させていますか。

もちろん、まずは現場が安定していることが前提です。無理をして一時的に大きなことをするよりも、続けられる形で若者の挑戦や学びの機会を支えたい。地域で育った事業が、地域の次の挑戦を応援する。その流れを少しずつ太くしていくことが、シテンらしい還元の形だと思っています。

事業の広がりと、会社のこれから

鮎料理店「魚安」のような異なる業種を引き継ぐとき、シテンが支える仕事と、その道の担い手に委ねる仕事をどう見極めますか。

業種が違っても、事業を続けるために必要な経営の土台には共通点があります。資金繰り、経営管理、採用、広報、ブランディング、外部との調整などは、シテンが支えられる部分です。一方で、料理の味、調理技術、お客様との距離感、長年培われた文化のような事業の芯は、その道の担い手に委ねるべきだと考えています。

庄東ノーサンと魚安では、その見極め方はどう違いますか。

庄東ノーサンでは、生産や品質管理を組織として続ける仕組みづくりが大きなテーマでした。魚安のような飲食・文化の事業では、味や空間の記憶を守りながら、今のお客様に届く発信や店舗運営を整えることが大切になります。違う業種でも、守るべきものを見極め、足りない土台を補うという考え方は同じです。

今後、シテンが最優先で取り組みたいことは何ですか。

今後いちばん力を入れたいのは、事業を引き継ぐ人、支える人を育てることです。シテンが一社で何でも抱えるのではなく、現場で判断できる若い経営者や、広報・経理・人事などを支えられるチームを増やしていきたいと考えています。

その人材育成を進めるために、人や資金をどこへ振り向けますか。

人や資金は、人材育成と、複数の事業を支えるデジタル・組織基盤に優先して振り向けます。富山にいても、地域の事業を継ぐ、育てる、新しく挑戦するという選択肢を持てる人を増やしたいです。シテンは、そのための受け皿であり、伴走者でありたいと思っています。

中谷様、貴重なお話をありがとうございました。

シテン株式会社について

シテン株式会社

シテン株式会社は、富山を拠点に、地域の事業承継と経営支援、広報・ブランディング、地域資源を生かしたプロジェクトの企画運営に取り組んでいます。庄東ノーサンや魚安の取り組みを通じ、現場の強みを残しながら、若い担い手が自分で判断できる経営の土台を支えています。

代表者:代表取締役社長 中谷 幸葉 様

本社所在地:富山県射水市西高木795

サービス紹介

事業承継と経営支援

現場の強みや技術を引き継ぎ、経営管理、販路、品質管理、人材・資金の調整を支援する。担い手が決める経験を積めるよう、事業の芯は現場に委ね、必要なときに相談できる関係を大切にしている。

公式サイトで事業内容を見る
古民家で集まる人々(シテン株式会社提供)

あとがき

中谷様の回答で繰り返し示されたのは、事業を引き受けることと、担い手が自分で決められる状態をつくることを一続きに考える姿勢です。栽培や料理の現場にある技術を尊重し、その後ろで経営管理、販路、人材や資金の調整を担う。業種が変わっても、守るべきものと補うべき土台を見極める考え方は共通しています。

承継先が自立して売上をつくることと、支援するシテン自身も事業を続けられること。その両方を大切にする理由が、回答から伝わってきました。学校との連携では生徒の主体性を尊重し、若者への還元では現場の安定を前提にする。目の前の事業を続けることと、次の担い手の選択肢を増やすことを、一緒に考えている姿勢が印象に残りました。

写真提供:シテン株式会社。

著者情報

SHI-SO

SHI-SO編集部

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