抹茶を楽しむ入り口を、静岡から広げる
アメリカで出会った抹茶ラテをきっかけに、身近な静岡のお茶の価値を見つめ直した吉村高彦様。トレーラーでの開業から、間借り営業や人宿町の店舗での営業を経て、七間町に「オーガニック抹茶カフェ 和み」を構え、抹茶のおいしさと、それを楽しむ時間を届けてきました。
株式会社ワガツナグの代表取締役として、現在は抹茶の輸出・国内卸やデザインにも取り組む吉村様に、開業の原点、地域の方や仲間に支えられた歩み、事業を続けるための判断、そして静岡で次の世代の挑戦を育てる思いを伺いました。
今回ご回答いただいた方
株式会社ワガツナグ
吉村 高彦 様
株式会社ワガツナグ 代表取締役。福岡県出身。大学進学をきっかけに静岡へ移り、2019年のアメリカ留学中に抹茶ラテと出会う。2020年8月27日、大学在学中に開業。トレーラーでの営業から、間借り営業や人宿町の店舗での営業を経て七間町へ移転し、抹茶カフェ経営、抹茶の輸出・国内卸、デザイン請負に取り組む。
経営の原点と、静岡から届ける理由
2019年のアメリカ留学で抹茶ラテと出会ったとき、何を感じましたか。
2019年にアメリカへ留学した際、現地で抹茶ラテに出会ったことが、抹茶の魅力を見つめ直すきっかけになりました。日本の文化である抹茶が、海外ではラテという形で日常に溶け込んでいる。そのことが、とても印象的でした。
抹茶は、おいしさだけでなく、楽しみ方を変えることで国や文化を越えて親しまれるものなんだと感じました。同時に、日本人である自分自身も、その魅力をまだ十分に知らなかったことに気づいたんです。
大学生活を送っていた静岡には、お茶の産地が身近にあります。海外での体験を通じて、身近にあるお茶の価値を改めて知り、それを自分の言葉や商品で伝えていきたいと思うようになりました。
和みでは、抹茶ラテやスイーツを入り口に、お茶を気軽に楽しんでもらいたいと考えています。そこで生まれた興味が、静岡のお茶や日本の茶文化への関心につながっていく。そんなきっかけをつくりたいという思いが、開業の原点の一つです。
トレーラーでの開業から数度の移転を経て、七間町の店舗へ。大きな決断と、その判断で大切にしたことを教えてください。
人宿町での営業を経て、七間町への移転を決めたことです。移転に伴う内装工事や融資も含め、継続して運営していく責任を感じました。それでも、抹茶を販売するだけでなく、お客様がゆっくり過ごし、お茶の魅力を感じられる場所をつくりたいと考えました。
判断する際に大切にしたのは、「自分がどんなお店をつくりたいのか」と「それを事業として続けられるのか」の両方です。思いだけで進めるのではなく、売上や費用を考えながら、それでも挑戦する価値があるかを自分に問いかけました。
七間町に拠点を持つことは、地域とのつながりや、お客様に繰り返し来ていただける関係を育てることにもつながります。抹茶を楽しむ時間や場所まで届けたいという思いが、その決断を後押ししました。
「和みはこういう場所でありたい」と感じた、お客様との出来事はありますか。
大きかったのは、お客様から「静岡のために頑張ってくれてありがとう」と言っていただいたことです。僕は福岡出身で、大学進学をきっかけに静岡に来ました。そんな自分の活動を、静岡のためになることとして受け止めていただけたのが、とてもうれしかったんです。
自分が魅力を感じた抹茶を伝えることが、地域の方に喜んでいただくことにもつながる。その経験から、和みを、静岡のお茶の魅力に出会えて、地域の方にも愛着を持っていただける場所にしたいという思いが、より具体的になりました。
その後のお店づくりでも、抹茶ラテやスイーツのおいしさを入り口に、静岡のお茶に興味を持っていただくことを大切にしています。地元の方には身近なお茶の魅力を再発見していただき、観光で来られた方には静岡を好きになるきっかけを届けたい。いただいた感謝の言葉は、今も事業を続けるうえでの励みになっています。
地域の方からの言葉が、お店を続ける励みになっているのですね。
和みならではの価値を育てる取り組み
抹茶を扱う中で、ご自身の見方や商品づくりはどう変わりましたか。
一番大きな変化は、もともと食わず嫌いしていた抹茶が、今では自分のライフスタイルの一部になったことです。抹茶を知り、扱う中でどんどん身近になり、いろいろなお店でも自然と抹茶の商品に目が向くようになりました。「どういう味なんだろう」「どんな楽しみ方ができるんだろう」と、興味を持つようになったんです。
その変化から、抹茶にあまりなじみのない方にも、好きになるきっかけを届けられるのではないかと考えるようになりました。僕自身がそうだったからこそ、最初から詳しい知識がなくても、おいしいと感じる一杯や一品との出会いを大切にしたいと思っています。
今の和みでは、有機抹茶を使い、濃さを選べる抹茶ラテやスイーツを通じて、それぞれの好みに合う楽しみ方を提案しています。お店での体験をきっかけに、日常の中でも抹茶が気になるようになる。そんなふうに、お客様の暮らしに抹茶が少しずつなじんでいったらうれしいですね。
2023年7月の七間町への移転後、お店づくりで変えたことはありますか。
七間町への移転後は、商品だけでなく、「どんな時間を過ごしていただけるか」という視点で、お店づくりを考えるようになりました。以前の店舗でも夜営業を行っていましたが、七間町では深夜0時まで営業し、仕事帰りや食事の後にも抹茶やスイーツを楽しめる場所を目指しました。
取り組む中で感じたのは、同じ抹茶ラテでも、お客様が求めるものは時間帯や利用する場面によって変わるということです。誰かと会話を楽しみたい方もいれば、一人で落ち着いて過ごしたい方もいます。おいしい商品を用意することに加えて、その時間を心地よく過ごせることも、お店の価値なのだと気づきました。
抹茶を特別なときだけ楽しむものではなく、日常のさまざまな場面で選んでいただけるものにしたい。七間町への移転を機に、そのためにできることを、商品と空間の両方から考えるようになりました。
一杯のおいしさに加えて、過ごす時間も大切にされているのですね。
お客様の反応を、抹茶の楽しみ方の提案にどう生かしていますか。
お客様から「おいしい」と言っていただいたものや、実際によく売れている商品を、もっと楽しんでいただけるように工夫してきました。例えば、抹茶ラテにバニラアイスを合わせるアレンジなど、人気の商品を入り口に、少し違った楽しみ方を提案しています。
大切にしているのは、こちらが伝えたいことだけでなく、お客様がどこに魅力を感じてくださっているかを見ることです。普段から好きで飲んでくださっている方には新しい楽しみを、まだ飲んだことがない方には試してみたくなるきっかけをつくりたいと思っています。
そうした経験を通じて、抹茶の魅力は言葉で説明するだけでなく、実際に「おいしい」「また飲みたい」と感じていただくことで伝わるのだと感じています。お客様の反応をヒントに、日常の中で抹茶を楽しむ選択肢を増やしていきたいですね。
事業を支える関係・体制・経営判断
和みの開業や継続を支えてくれた人との関わりについて、聞かせてください。
一人の方や一つの出来事というより、開業から今まで、要所要所で苦しいときに助けてくれる人がいつもいたことが、強く印象に残っています。その時々で関わる方は違っても、困ったときに手を差し伸べてくれる人がいて、その支えがあったからこそ、和みを続けてこられたと感じています。
今も大切にしているのは、助けてもらったことを当たり前にしないことです。感謝を言葉や行動で伝えるとともに、今度は自分も、誰かが苦しいときに力になれる存在でありたいと思っています。
時間や費用が限られる中で、何を優先し、どう判断してきましたか。
優先してきたのは、お客様の反応がある商品を、より楽しんでいただくための取り組みです。時間や費用が限られる中では、「おいしい」と言っていただけるものや、実際に売れているものを軸に、キャンペーンやアレンジを考えてきました。
新しいことを始めると、試作や仕入れ、スタッフへの共有にも時間と費用がかかります。そのため、アイデアがあっても、今の運営の中で無理なく提供できるか、お客様に喜んでいただけるかを考えて、すぐには取り組まないこともあります。
判断するときに大切にしているのは、お客様の反応と、継続できるかどうかです。やってみたい気持ちは大切にしながらも、まずは今ある商品の魅力を磨き、日々の営業をしっかり続けることを優先しています。
事業の取り組み方を見直した転機は何でしたか。
大きなきっかけは法人化です。事業を続ける責任に加えて、一緒に働くスタッフのことも含め、より広い視点で考える必要があると感じました。そこで、自分一人で抱えるのではなく、人に任せることを意識するようになりました。
仕事を任せるためには、作業だけでなく、目的や判断の基準も共有することが大切だと考えています。お店の状況や課題を全体で共有し、どうすればよくなるかを一緒に考えるようになりました。スタッフが自分で考えて行動できる機会をつくり、僕自身も任せ方や伝え方を学んでいく。
任せるために、仕事の目的や判断の基準も共有する。チームづくりの転機だったのですね。
地方で事業を育てる工夫
抹茶の産地と、それを味わうお客様をつなぐうえで、どんな役割を大切にしていますか。
事業を通じて感じたのは、産地や素材のよさを伝えることと、お客様にその魅力を実感していただくことの間には、橋渡しが必要だということです。生産者がつくった抹茶を、どんな商品にして、どのように楽しんでいただくか。そこに、僕たちが担う役割があると考えています。
僕自身、もともとは抹茶を食わず嫌いしていましたが、抹茶ラテとの出会いから、日常の中で抹茶に目が向くようになりました。その経験から、まず「おいしい」と感じることが、素材や産地への興味につながるのだと思っています。
和みでは、濃さを選べる抹茶ラテやスイーツを通じて、お客様が自分の好みに合う楽しみ方を見つけられるようにしています。そのうえで、使っている抹茶や静岡のお茶について伝えることを大切にしています。一杯のおいしさをきっかけに、その背景にある産地にも関心を持っていただけたらうれしいですね。
発信やお客様との接点づくりで、印象に残っている取り組みを教えてください。
特に印象に残っているのは、七間町への移転に合わせて、30日間、毎日リール動画を投稿したことです。新しいお店を知っていただくとともに、開店までの過程や、そこに込めた思いも伝えたいと考えて始めました。
発信を続ける中で、いろいろな方に応援していただけるようになりました。お店ができるまでの過程を共有することが、和みに関心を持っていただき、応援していただくきっかけになるのだと感じました。
一方で、準備を進めながら毎日発信することで、自分一人でできることの限界も実感しました。今、人に任せることや、チームで共有しながら進めることを意識しているのも、この経験が一つのきっかけになっています。
発信の手応えと、一人で続ける難しさの両方を感じた経験だったのですね。
静岡で、地域や次の世代にどんな機会をつくりたいですか。
つくりたいのは、「ここで働きたい」と思ってもらえる会社です。カフェの仕事を入り口に、社内のいろいろな事業に関わり、経験や将来の選択肢を広げられる環境にしたいと考えています。
現在は店舗運営に加えて、抹茶の海外輸出や、デザイン・動画制作などにも取り組んでいます。例えば、店舗運営とデザインの両方に関わるスタッフもいます。一つの仕事で得た経験を別の仕事にも生かしながら、自分の得意なことや、挑戦したいことを見つけてもらいたいですね。
静岡を拠点にしながら、地域を越えて活躍できる人を育てることも目標です。地域で働くことが、広い世界とつながるきっかけになる。
静岡で働くことが、地域の外へ挑戦する入り口にもなるのですね。
開業準備をしていた当時のご自身に、今なら何を伝えますか。
「自分一人でできることには限界があるから、早い段階から人に頼ることや、任せることを考えておくといい」と伝えたいです。
始めるときは、商品づくりも営業も発信も、自分が頑張れば進められると考えがちでした。でも、お店を続け、事業が広がるにつれて、自分の努力だけでは支えきれない場面が出てきます。
だからこそ、自分の中にある思いや判断の基準を言葉にして、周りと共有することを、もっと早くから意識しておきたかったです。
これから届けていきたい思い
現在、特に力を入れていることと、実現したいことを教えてください。
今、特に力を入れているのは、スタッフが主体的に仕事に関わり、一緒に成長できる組織づくりです。
大切にしたいのは、スタッフが経験を積み、自分で考えて行動できる機会をつくることです。店舗運営を軸に、デザインや発信、海外との取引など、社内のさまざまな事業を通じて、得意なことや可能性を広げられる環境を目指しています。
「ここで働きたい」「ここで働いて成長できた」と思ってもらえる会社にしたいですね。
最後に、読者へ伝えたい思いを聞かせてください。
地方にはさまざまな課題があり、ビジネスを通じて貢献できることは、まだまだあると感じています。一方で、事業は始めるだけでなく、続けていくことが本当に難しい。思いを実現するためには、経営を成り立たせることにも向き合う必要があります。
僕自身、飲食の中でも継続のハードルが高いと感じるカフェという業態で、試行錯誤を重ねてきました。そこで得た知見を、うまくいったことだけでなく、苦労や失敗も含めて、これからも発信していきたいと思っています。その経験が、これから挑戦する方や、今まさに事業を続けようと奮闘している方の判断材料になればうれしいです。
そして、自分だけでなく、それぞれの地域で挑戦する人が、経験や学びを発信するようになってほしいと思っています。誰かの経験が次の誰かの挑戦を支え、その挑戦が地域の力になる。和みを続けていくことと、その過程を伝えることの両方を通じて、そうした循環をつくっていきたいです。
貴重なお話をありがとうございました。

海外での出会いが、身近な静岡のお茶を見つめ直すきっかけになったのですね。